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水戸地方裁判所 昭和40年(行ウ)13号 判決

茨城県日立市滑川町九二番地

原告

有限会社鈴真工業所

右代表者代表取締役

鈴木重蔵

右訴訟代理人弁護士

武藤禾幹

武藤章造

同県同市若葉町二丁目一番八号

被告

日立税務署長

茅根曻次

右指定代理人大蔵事務官

須藤哲郎

田村広次

大塚俊男

榊広之介

右指定代理人法務事務官

柿原増夫

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者双方の求める裁判

一  原告

1. 原告の昭和三七年七月一日から同三八年六月三〇日までの事業年度分法人税につき、被告(当時高萩税務署長、昭和四二年四月一日日立税務署長に名称変更)が昭和三九年五月三〇日付法人税等の更正通知をもつて、法人税額を更正し加算税を賦課した更正処分のうち、左記金額に対する分を取消す。

所得金額 九、六六二、〇四五円

所得に対する税額 三、五八九、九九五円

留保所得金額 四、一〇二、七〇〇円

右に対する法人税額 四一〇、二七〇円

過少申告加算税 二〇〇、〇〇〇円

法人税額合計 四、二〇〇、二六五円

2. 訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

1. 原告の請求を棄却する。

2. 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者双方の主張

一  請求の原因

(一)1. 原告は製罐業を営むものであるが、昭和三七年七月一日から同三八年六月三〇日までの事業年度(以下本件事業年度という。)の所得金額およびこれに対する法人税額を左記のとおり被告に申告した。

所得金額 三六八、七三七円

法人税額 一二一、六七一円

2. 被告は昭和三九年五月三〇日付でつぎのような項目と金額をかかげて更正決定(以下本件更正処分という。)をなし、原告に通告した。

所得金額 一〇、〇六三、一八二円

所得に対する法人税額三、七二三、九七八円

留保所得金額 四、〇八二、二〇〇円

右に対する法人税額 四〇八、二二〇円

過少申告加算税額 二〇〇、五〇〇円

法人税額合計 四、三三二、六九〇円

3. 原告は昭和三九年六月二二日付で被告に異議の申立をしたところ、同年九月二五日付で棄却されたので、同年一〇月二二日関東信越国税局長に審査請求をしたが、同局長は昭和四〇年一〇月五日付で本件更正処分をつぎのとおり変更し、その余を棄却する旨の裁決をした。

所得金額 一〇、〇三〇、七八二円

所得に対する法人税額 三、七一一、六六六円

留保所得金額 四、一〇二、七〇〇円

右に対する法人税額 四一〇、二七〇円

過少申告加算税額 二〇〇、〇〇〇円

法人税額合計 四、三二一、九三〇円

(二)  しかしながら原告が本件事業年度において得た所得金額は前記申告のとおりであり、したがつて本件更正処分のうち、裁決により維持された所得金額および所得に対する税額は申告にかかる所得金額および所得に対する税額を超える限度において違法たるを免れない。また裁決により維持された留保所得金額およびこれに対する課税処分ならびに過少申告加算税の課税処分も違法である。

よつて、本件更正処分のうちみぎの違法部分の取消を求める。

二  答弁および抗弁

(一)  請求の原因のうち、第一項を認め、第二項を争う。なお、原告が関東信越国税局長に審査請求をした時期は昭和三九年一〇月二二日である。

(二)1. 原告および訴外鈴木重蔵は昭和三七年七月三一日訴外日立セメント株式会社(以下訴外会社という。)との間に、原告所有の別紙第一目録記載の土地(以下第一の土地という。)、鈴木重蔵所有の別紙第二目録記載の土地(以下第二の土地という。)の各所有権を訴外会社に移転し、訴外会社は別紙第三目録記載の土地(以下第三の土地という。)の所有権を原告および鈴木重蔵に移転する旨の交換契約を締結するとともに、これに附帯して、訴外会社は交換の目的物の価格差金を支払い、かつ第三の土地(当時いずれも畑)に宅地造成工事を施した上、工場、外柵を設置し、さく井配管施設、排水施設の各工事、電気設備の移転および更新を行ない、これを原告に提供し、さらに原告において行なう機械設備の移転、据付の費用および休業補償費を支払うことを約した。

2. 訴外会社は昭和三七年八月一八日茨城県知事による農地法第五条の許可を受けた上、訴外宮本正次郎らから第三の土地を買受けてその所有権を取得し、これを原告らに譲渡したものであるから、この時点において原告らの譲渡益は実現し、原告らの本件事業年度の益金を構成するにいたつた。そして同年一一月七日には前記附帯契約にもとづき総工費(概算)金七、五〇〇、〇〇〇円相当の新工場の建築も完了し、原告は同工場の引渡を受けた上、機械設備の移転等の作業も完了して同年一二月頃から操業を開始し現在にいたつている。他方、原告は昭和三七年一一月七日訴外会社から前記工場の引渡を受けると同時に、前記交換に供した第一の土地を訴外会社に明渡した。以上のようなわけで、昭和三七年一一月七日現在、前記交換契約およびその附帯契約にもとづく第一の土地の譲渡益は実現した。

3. 前記交換等の契約により原告が取得した資産の価額は、後記(い)のとおり金一四、二〇三、〇六二円であるから、これを収入金額として益金に加算し、交換により失なつた資産の価額は後記(ろ)のとおり金四、〇八五、〇四九円であるから、これを損金として減算した金一〇、一一八、〇一三円を、原告の確定申告による所得金額金三六八、七三七円に加算した金一〇、四八六、七五〇円が本件事業年度の所得である。

(い) 原告が取得した資産金一四、二〇三、〇六二円

(イ) 前記交換等の契約により取得した資産のうち、原告だけに帰属するもの 合計金八、七二九、五九四円

(1) 建物 金五、九八〇、一九四円(本工場一三七・五坪、附属建物一二・五坪、事務所一五坪、便所二坪の新新工事による訴外会社の支出金額)

(2) 外柵(ブロツク塀) 金二六〇、〇〇〇円(訴外会社の工事支出金額)

(3) さく井配管施設 金二三八、八〇〇円(訴外会社の工事支出金額)

(4) 排水施設の整備 金三四、〇〇〇円(訴外会社の工事支出金額)

(5) 電気設備の移設および更新 金五六六、六〇〇円(訴外会社の工事支出金額)

(6) 機械設備の移転据付費 金六五〇、〇〇〇円

(7) 休業補償費 金九〇〇、〇〇〇円

(8) 移転工事雑費 金一〇〇、〇〇〇円

(ロ) 原告と重蔵とが按分計算により取得したもののうち原告分 金五、四七三、四六八円

譲渡の当事者が一方が二名以上である場合には、課税標準の算定は、譲渡者各人ごとに行なうこととなるが、この場合譲渡者各人ごとの譲渡価額は、譲渡により受ける対価の額を基礎として、各人の譲渡資産の時価額の合計額に対する各人ごとの時価額の割合により按分するのが最も妥当な方法である。ところでこれら譲渡資産の時価額は状況が類似している土地で単位当りの取引価格が同一であるときは、数量の大小に比例するからみぎの時価額の割合により按分した結果は、面積の割合により按分した結果と同一となる。これを本件についてみれば、被告が本件課税の対象となつた原告および重蔵の譲渡資産について調査したところ、いずれも茨城県日立市平和町二丁目に所在し、状況が類似しており、単位当りの価格が同一と認められた。そこで原告の譲渡した第一の土地と重蔵の譲渡した第二の土地の合計面積に対する前者の面積の割合は六一・六パーセントとなるので、この割合による按分方法により原告の取得分を算出するとつぎのとおりとなる。

(1) 土地 金三、六六五、二〇〇円(「土地交換契約書」(甲第三号証)二項により訴外会社から取得した土地(「覚え書」(甲第四号証)二条一項の3の代替地)の価格金五、九五〇、〇〇〇円に前記原告分の按分割合を乗じた額)

(2) 地価格差 金七三〇、二六八円(前記「覚え書」二条一項の3による地価格差金一、一八五、五〇〇円に前記原告分の按分割合を乗じた額)

(3) 土地造成費 金二七七、二〇〇円(前記「覚え書」一条一項の1による土地造成費で、訴外会社が支出した金四五〇、〇〇〇円に前記原告分の按分割合を乗じた額)

(4) 休閑地補償 金一八四、八〇〇円(前記「覚え書」二条一項の4による訴外会社が支払う補償金三〇〇、〇〇〇円に前記原告分の按分割合を乗じた額)

(5) その他の補償額 金六一六、〇〇〇円(前記「覚え書」二条一項の4による訴外会社が支払うその他補償費一、〇〇〇、〇〇〇円に前記原告分の按分割合を乗じた額)

(ろ) 原告が失なつた資産 金四、〇八五、〇四九円

(イ) 土地 金一、一〇〇、〇〇〇円(前記「土地交換契約書」一項により原告が訴外会社に提供した土地の原告備付けの固定資産台帳(甲第八号証)上の帳簿価額)

(ロ) 工場用建物 金二、四二九、三二三円(原告が訴外会社に提供した前記(1)の土地上に存する製罐工場の帳簿価額)

(ハ) 設備移転費 金五五五、七二六円(本件事業年度決算報告書添付書類(甲第七号証)中勘定科目内訳書仮受金欄摘要の支出合計額)

4. 以上のようなわけで、原告の本件事業年度における所得金額は金一〇、四八六、七五〇円であるから、その範囲内である金一〇、〇三〇、七八二円を課税標準額と認定した本件更正処分には何等の違法も存しない。

三、抗弁に対する認否および反論

(一)  被告主張(二)1の事実について

原告および鈴木重蔵が訴外会社との間に、原告は鈴木真治所有名義の第一の土地を、鈴木重蔵は同人所有の第二の土地を、いずれも訴外会社に提供し、訴外会社は第三の土地を原告および鈴木重蔵に提供して、各所有権を移転する旨の土地交換契約を締結したことは認めるが、その時期が昭和三七年七月三一日であるとの点は否認する。みぎ契約は昭和四〇年一〇月二一日締結されたものである。

同(二)2の事実中、昭和三七年一一月七日訴外会社が原告に対する工場およびその敷地の引渡を完了したとの点は否認する。この引渡は本件事業年度中には完了しなかつた。また被告主張の「覚え書」にもとづき、訴外会社が原告に対し支払うことを約束した施工費、補償費等金四、一三五、五〇〇円についても、原告はそのうち金八六四、五〇〇円を入金したにすぎない。

(二)  かりに、被告主張の土地交換契約およびその附帯契約が昭和三七年七月三一日締結されたとしても、みぎの土地交換契約は、つぎに記載する理由により無効であり、然らずとするも昭和三八年六月三〇日現在、未だ効力を生じていなかつた。

1. 前記「土地交換契約書」の上で当事者として表示されている鈴木真治は、昭和三二年九月二七日死亡しているから、みぎ契約中同人に関する部分は無効である。

2. 前記契約書には原告の代表者の署名、捺印が存しないから、同契約の効力が原告に及ぶいわれはない。

3. 前記土地交換契約において原告が所有権を移転することを約した第一の土地は同契約締結当時、亡鈴木真治の所有名義となつていたものであつて、原告はもとより訴外会社も、原告が自由に処分できる土地とは考えていなかつた。そのため原告は、昭和四〇年九月二五日取締役会を開催し真治の相続人鈴木良一の出席を求め、原告の所有地として処分するにつき同人の同意を得た上、昭和四〇年一〇月二一日鈴木良一名義で訴外会社との間に新たに土地交換契約を締結し、同日この交換契約を原因として所有権移転登記を経由したものである。さようなわけで、土地交換契約を締結した昭和三七年七月三一日当時、当事者である原告および訴外会社はいずれも同契約により、当然に交換の目的物の所有権を移転する意思は有していなかつたのであつて、このことは、水戸地方裁判所日立支部昭和四〇年(ワ)第一三七号交換契約無効確認等事件につき和解の成立をみた口頭弁論期日において、原告および訴外会社が前記昭和四〇年一〇月二一日締結の土地交換契約が有効であることを確認している事実に徴しても明らかである。

(三)  かりに、昭和三七年七月三一日締結の土地交換契約により亡鈴木真治所有名義の第一の土地所有権が移転し、原告に本件事業年度の譲渡益があつたとしても、被告はこの譲渡益を誤認している。

すなわち、原告が交換に供した鈴木真治所有名義の第一の土地は合計二七九坪、その時価は金四、一八五、〇〇〇円(一坪当り金一五、〇〇〇円)であり、鈴木重蔵が交換に供した第二の土地は合計一八九、八五坪、その時価は金四、四六一、四七五円(一坪当り金二三、五〇〇円)であるから、原告が交換に供した土地と鈴木重蔵が交換に供した土地の各時価の全体に対する比率は、前者が四八パーセント、後者が五二パーセントとなる。ところで、訴外会社は前記交換契約により前記両名に一括して資産を提供しているので、みぎの時価の割合により按分して原告の受入資産を決定すべきところ、訴外会社の提供した資産は、(一)主要工場建物設備費金七、五〇〇、〇〇〇円 (二)施行費補償金四、一三五、五〇〇円 (三)受入土地の時価金五、九五〇、〇〇〇円 以上合計金一七、五八五、五〇〇円となるから、これを前記割合により按分すれば、原告分は金八、四四一、〇九〇円となり、この収入金額から、前記交換契約により原告が失なつた資産、すなわち土地の帳簿価格金一、一〇〇、〇〇〇円、建物の帳簿価格金二、四一九、三二五円および設備移転費金二五五、七二六円、以上合計金三、七七五、〇五一円を控除した金四、三五一、〇四一円が本件土地交換契約および附帯契約により生じた本件事業年度の所得ということになる。

四、原告の反論に対する被告の応答

(一)  原告主張の(二)の1、2の事実中、原告主張の「土地交換契約書」に当事者として鈴木真治の記名、印影が存し、原告が当事者として表示されていないこと、および鈴木真治が昭和三七年九月二七日死亡したことは認める。しかしながら、昭和三七年七月三一日鈴木重蔵が個人の資格と原告の代表者の資格を兼ねて締結した前記土地交換契約において、原告が交換に供する第一の土地は、いずれも前述のように原告の所有に属していたが、登記簿上の所有名義人が鈴木真治となつていたため、登記手続の便宜を考えて契約書には同人の記名、印章を使用したまでのことである。

同(二)の3の事実中、昭和三七年七月三一日締結の土地交換契約において、原告が所有権を移転することを約した第一の土地が当時亡鈴木真治の所有名義となつていたこと、およびこの第一の土地につき、交換による所有権移転登記が昭和四〇年一〇月二一日経由されていることは認めるが、前記土地交換契約締結当時、原告および訴外会社が、第一の土地を原告において自由に処分できるものとは考えておらず、したがつて同契約により当然にみぎ土地の所有権を移転する意思を有していなかつたとの点は否認する。なお、水戸地方裁判所日立支部昭和四〇年(ワ)第一三七号交換契約無効確認所有権移転登記抹消事件の和解調書に、当事者双方(原告有限会社鈴真工業所、同鈴木重蔵、被告日立セメント株式会社)は昭和四〇年一〇月二一日原告鈴木重蔵と被告、訴外鈴木良一と被告との間に成立した別紙土地交換契約が有効であることを認める旨記載されていることは事実である。

(二)  かりに前記昭和三七年七月三一日締結の土地交換契約が無効であるとしても、昭和四〇年一〇月二一日みぎ契約当事者は合意によつて遡及的追認をした。かりにそれすら認められないとしても、前述したように昭和三七年七月三一日以来前記土地交換契約にもとずく経済的成果はすでに発生しているのであるから、本件更正処分には何らの違法もない。

証拠

一  原告

甲第一ないし第二一号証第二二号証の一、二第二三ないし第三四号証を提出し、証人島田条一、小野浜五郎の各証言原告代表者本人尋問の結果(第一、二回)ならびに鑑定人高田輝明の鑑定の結果を援用し、乙第一ないし第一〇号証第一四号証の成立を認め、第一一ないし第一三号証は原本の存在とその成立を認めた。

二  被告

乙第一ないし第一四号証を提出し、証人佐藤弘道の証言を援用し、甲第一、第二号証第五、第六号証第八号証第二四ないし第二七号証第三一ないし第三三号証の成立を認め、第九、第一〇号証第一二号証第一四ないし第二一号証第二二号証の一、二第二八、第二九号証は原本の存在とその成立を認める。第三、第四号証のうち鈴木真治の作成部分の成立は不知、その余の部分は成立は認める。第一三号証のうち鈴木良一作成部分は原本の存在、成立ともに不知、その余の部分は原本の存在とその成立を認める。第七号証第一一号証第二三号証第三〇号証第三四号証の成立は不知と述べた。

理由

一  請求の原因第一項は当事者間に争いがない。

二  原告の本件事業年度における所得金額につき、被告が金一〇、四八六、七五〇円であると主張するのに対し、原告は金三六八、七三七円であると抗争するので、以下判断をすすめる。

(一)  原告および鈴木重蔵が訴外会社との間に、原告は亡鈴木真治所有名義の第一の土地を、鈴木重蔵は同人所有の第二の土地を訴外会社に各提供し、訴外会社は第三の土地を原告および鈴木重蔵に提供してそれぞれ所有権を移転する旨の交換契約を締結したことは当事者間に争いがなく、鈴木真治作成部分を除き成立に争いのない甲第三、第四号証成立に争いのない乙第一ないし第一〇号証原本の存在と成立に争いのない甲第一五号証同第一七ないし第二〇号証同第二二号証の一、二証人島田条一の証言および原告代表者本人尋問の結果(第一、二回)の一部を総合すると、つぎの事実が肯認され、原告代表者本人尋問の結果(第一、二回)の一部を総合すると、つぎ事実が肯認され、原告代表者本人尋問の結果(第一、二回)のうち、みぎ認定に抵触する部分はこれを除く前示各証拠に照らし信用できないし、証人佐藤弘道の証言と原告代表者本人の供述(第二回)により成立を認める甲第三四号証もみぎの証言、供述と総合検討するとき前認定を左右するに足りず、他に反証の見るべきものも存在しない。すなわち原告代表取締役鈴木重蔵は、かねてから取引の再開を希望していた訴外会社の要請により、訴外会社の工場増設のための敷地に充てるため原告所有工場の敷地を提供し、これに対し訴外会社は、他に土地を求めて工場を新設しその敷地とともに原告に提供することを骨子として、昭和三六年四月頃から訴外会社との間に話合をすすめた結果、昭和三七年七月三一日鈴木重蔵個人の資格を兼ね、訴外会社との間に、「土地交換契約書」および「覚え書」を作成の上、つぎのような内容の契約を締結した。

1. 原告は第一の土地を、重蔵は第二の土地を訴外会社に提供し、訴外会社は第三の土地(当時農地)に宅地造成工事を施した上、原告および鈴木重蔵に提供して各所有権を移転、交換する(「土地交換契約書」(甲第三号証)「覚え書」(甲第四号証)第一条第一項1参照)

2. 訴外会社は原告および鈴木重蔵に対し、第一、第二の土地と第三の土地の価格の差額に相当する補足金二、四八五、五〇〇円を支払う(「覚え書」第二条第一項3および4の「休閑地補償」、「その他補償」の項目参照。なお「覚え書」の上では以上の名目を使用するが、その実質が補足金であることは前示甲第一七号証記載の証人渡辺昇の証言により明らかである。)

3. 訴外会社は第三の土地上に工事等の建物を建築し、外柵(軽ブロツク積み)を設置し、さらにさく井配管施設、排水施設の整備、電気設備の移設および更新等の工事を行なう(「覚え書」第一条第一項2ないし6参照)。

4. 訴外会社は原告に対し、機械設備の移転据付費金六五〇、〇〇〇円、休業補償費金九〇〇、〇〇〇円、移転工事雑費金一〇〇、〇〇〇円以上合計金一、六五〇、〇〇〇円を支払う(「覚え書」第二条第一項1、2および4の「移転工事雑費」の項目参照。)

5. 前記2の補足金二、四八五、五〇〇円、同4の各種工事費金一、六五〇、〇〇〇円合計金四、一三五、五〇〇円は、つぎの方法により支払う。

(1)  本件契約締結のとき 金一、三〇〇、〇〇〇円

(2)  原告が機械設備の新設工場への移転を開始したとき 金七五〇、〇〇〇円

(3)  みぎの移転が完了したとき 金二、〇八五、五〇〇円

6. 原告は前示新設工場への移転作業完了と同時に、第一、第二の土地上に存する工場その他の物件の所有権を訴外会社に移転する。

(二)1. 原告は前示「土地交換契約書」の上で、契約当事者として表示された鈴木真治は昭和三二年九月二七日死亡しており、また当事者である原告については代表機関の表示を欠くから無効である旨主張するので考えてみると、成立に争いのない甲第八号証前示同第一五号証同第二二号証の一乙第三、第四号証および原告代表者本人尋問の結果(第一回)を総合すると、原告は鈴木真治が代表取締役の時代(昭和三一、三二年当時)に、第一の土地を立花国雄から買受けたが(もとより原告備付の固定資産台帳上に登録されている。)、鈴木真治の個人名義で所有権移転登記を受け、同人が昭和三二年九月二七日死亡後も(この死亡の時期は当事者間に争いがない。)そのまま放置していた関係上、鈴木重蔵は前示契約書を作成するにあたつて、原告の代表者の表示に代え、便宜この登記簿上の名義を利用したにすぎないことが肯認できる。以上のような経緯にかんがみるとき、「土地交換契約書」の当事者の表示に、原告の主張するような事実が存したからといつて、本件契約の成立に関する前示認定を左右するに足らないし、また同契約の効力に消長を来たすいわれはない。

2. さらに原告は、本件契約の当事者である原告はもとより訴外会社も、当事鈴木真治所有名義の第一の土地は原告の一存で自由に処分できる土地とは考えておらず、したがつて本件契約により交換の目的物の所有権を移転する意思は有していなかつたものであつて、その後原告は、鈴木真治の相続人鈴木良一の同意を得た上昭和四〇年一〇月二一日鈴木良一名義で更めて訴外会社との間に土地交換契約を締結した旨主張する。しかしながら鈴木重蔵が第一の土地所有権を訴外会社に移転する意思なくして本件契約を締結し、また本件契約の締結につきその衝にあたつた訴外会社の業務部長渡部昇、庶務係長松本憲一郎、同係員島田粂一(以上の点は前示甲第一七号証同一九、第二〇号証により肯認できる。)が、第三の土地所有権を鈴木重蔵および原告に移転する意思がなかつたという点については、これを肯認できる証拠は何一つ存在しない。また鈴木良一作成部分を除き原本の存在とその成立につき争いのない甲第一三号証証人小野浜五郎の証言により成立を認める同第一一号証前示同第一五号証同第一九号証原本の存在と成立につき争いのない同第二一号証を総合すると、原告は本件契約にもとづき、鈴木真治所有名義の第一の土地につき訴外会社のため所有権移転登記手続をするについて、真治の相続人鈴木良一の承諾を得、あわせて、本件契約にもとづき、後に述べるとおり原告と重蔵の共有に帰した第三の土地の分割につき原告の社員の承認を受けるため、昭和四〇年九月二五日鈴木恵一鈴木菊江に集まつてもらい、その席上前記の登記手続につき鈴木良一の承諾を得、さらに第三の土地につきその1および2の土地は重蔵において取得し、同じく3ないし6の土地は原告において取得するについて承認を受けたこと、第一の土地につき昭和四〇年一〇月一日鈴木良一のため相続による所有権移転登記が経由されたこと、同月二一日訴外会社のため所有権移転登記手続をするにつき原因証書として鈴木良一と訴外会社を当事者とする「土地交換契約書」(甲第一三号証の原本)が作成され、同日登記が経由されたことが肯認できる。してみれば、みぎの「土地交換契約書」は本件契約にもとづく所有権移転登記義務を履行するために作成されたものであり、同契約が有効であることを前提とするものであることはいうまでもない。故に原告の前記主張は採用の限りでない。

3. 成立に争いのない甲第三一号証原本の存在とその成立に争いのない同第二八、第二九号証を総合すると、本件原告および鈴木重蔵は昭和四〇年一二月二一日頃、訴外会社を相手方として水戸地方裁判所日立支部に交換契約無効確認、所有権移転登記抹消等を訴求し、同支部昭和四〇年(ワ)第一三七号事件として係属したが、昭和四三年二月六日当事者間に、鈴木良一と訴外会社との間に昭和四〇年一〇月二一日成立した土地交換契約が有効であることを確認する等の条項を含む和解条項につき和解が成立したことが肯認できる。しかしながらさような和解が成立したからといつて、一且有効に成立した本件契約にもとづき既に発生した後述の本件事業年度の所得が当然に失われるものでないことはいうまでもあるまい。

(三)  前示甲第四号証同第一五号証同第二二号証の一原本の存在と成立につき争いのない乙第一一、第一二号証および原告代表者本人尋問の結果(第二回)とこれにより成立を認める甲第七号証を総合すると、つぎの事実が肯認できる。すなわち

訴外会社は、第三の土地についてあらかじめ地主の宮本正次郎、宮本テルと結んでおいた売買契約にもとづく所有権の移転につき、昭和三七年八月一八日茨城県知事から農地法第五条に定める許可を受けた上、宅地造成工事を施し工場その他の建物を建築したほか、前記二(一)3の各種設備の新設、移設等を完了し、同年一一月中には第三の土地を、同地上に存する建物その他設備一切とともに引渡し、原告も同月中に新工場への機械設備の移転等の作業を完了して一部操業を開始し、遅くとも昭和三八年二月には操業の全面的再開をみるにいたつた。他方第一、第二の土地に存する原告所有の工場等の建物は、本件契約の趣旨(前示二(一)6参照)にしたがい訴外会社の所有に帰し、その敷地である第一、第二の土地が訴外会社に引渡された。

しこうして、以上に認定した事実に徴すると、原告および鈴木重蔵の訴外会社に対する補足金請求権金二、四八五、五〇〇円(前示二(一)2参照)および原告の訴外会社に対する各種工事費、休業補償費請求権金一、六五〇、〇〇〇円(前示二(一)4参照)は、昭和三七年一一月中にその全額につき履行期が到来したことは明らかである(前示二(一)5参照)。この点につき原告は、以上の金額のうち原告が現実に入金した額は金八六四、五〇〇円にすぎない旨主張するので、この点につき附言すると、原本の存在と成立に争いのない甲第九、第一〇号証前示同第一七号証同第二二号証の二証人佐藤弘道の証言および原告代表者本人尋問の結果(第一、二回)を総合すると、訴外会社の前示合計金四、一三五、五〇〇円の債務については、昭和三七年九月一二日に金一、三〇〇、〇〇〇円、同年一一月二一日に金七五〇、〇〇〇円、昭和四〇年一〇月一六日に約金一、八〇〇、〇〇〇円が支払われ、その余は訴外会社の原告に対する税金代納等による立替金償還請求権と対等権において相殺されたことが認められる。ところで法人税法上益金確定の時期を、金銭債権の場合について考えてみると、法律上これを行使することができるような状態となつたときであり、抗弁権等の認められない本件の場合は、履行期が到来したときと解するのが相当である。したがつて前記債権額は本件事業年度の収入金額として益金に加算すべきである。

(四)  つぎに本件契約の結果、本件事業年度に生じた益金ならびに損金について以下具体的に考察する。

(イ)  原告が取得した資産金一三、八三三、一七〇円

1 取得した資産のうち原告だけに帰属するもの金八、七二四、四〇二円

(1) 建物 金五、八五〇、〇〇〇円(本工場および附属建物金五、二〇〇、〇〇〇円、事事務所金五五〇、〇〇〇円、便所金一〇〇、〇〇〇円)

(2) 外柵(ブロツク塀) 金二六〇、〇〇〇円

(3) さく井配管施設 金二三八、八〇〇円

(4) 排水施設の整備 金三四、〇〇〇円

(5) (1)ないし(4)の工事に使用したセメントの価格 金一二五、〇〇二円

(6) 電気設備の移設および更新(配線工事) 金五六六、六〇〇円

以上(1)ないし(6)は、成立に争いのない乙第一四号証および証人佐藤弘道の証言により肯認できる。

(7) 機械設備の移転据付費 金六五〇、〇〇〇円(前示二(一)4参照)

(8) 休業補償費 金九〇〇、〇〇〇円(前示二(一)4参照)

(9) 移転工事雑費 金一〇〇、〇〇〇円(前示二(一)4参照)

2. 取得資産のうち、原告と鈴木重蔵とが按分計算により取得したもののうち原告分金五、一〇八、七六八円

本件契約のうち土地の交換契約について考えてみると、一方の当事者は原告および鈴木重蔵であるから、訴外会社が交換に供した第三の土地がみぎ両名の共有に帰することとなる。そしてこの共有物である第三の土地に対する持分の割合は、両名が交換の目的物として醵出した第一の土地と第二の土地の各時価額の割合によつて定まるものと解するのが相当である。けだし特段の事情の認められない本件にあつては、両名の意思解釈として正鵠を得たものといいうるからである。そこで第一の土地と第二の土地の各時価額の比率について検討すると、この時価額そのものを判定するに足りる資料は見出しえないのであるが、地目を同じくする隣接地の時価額の比率については、次善の方法として固定資産税課税台帳上の評価額の比率によるのが相当であると考える。ところで成立に争いのない甲第二四、第二五号証によれば、第一の土地の昭和三七年度における評価額は金三四六、二〇〇円であり、第二の土地のそれは金二四〇、八〇八円であることが認められるから、その比率は一〇〇分の五九対一〇〇分の四一ということになる。本件契約により原告、鈴木重蔵両名の共有に帰した資産は、つぎに示す(1)、(2)のとおり合計金八、六五八、九三〇円であるから、これを原告の前記持分の割合(一〇〇分の五九)により按分すると金五、一〇八、七六八円となる。

(1) 第三の土地 金六、一七三、四三〇円

鑑定人高田輝明の鑑定の結果と前記甲第三号証の添付図面を総合すると、第三の土地の昭和三七年一一月当時(宅地造成工事が完成し原告、鈴木重蔵両名に引渡された時点)における坪当り価格は金一一、六七〇円と認めるのが相当であるから、この単価に坪数五二九を乗じた額である。

(2) 補足金二、四八五、五〇〇円(前示二(一)2参照)

(ロ)  原告が失なつた資産 金四、〇八五、〇四九円

1. 第一の土地の帳簿価格 金一、一〇〇、〇〇〇円

みぎの事実は前示甲第七、第八号証および原告代表者本人尋問の結果(第二回)により肯認できる。

2. 建物の帳簿価格 金二、四二九、三二三円

前示二(一)6の工場等建物の帳簿価格が金二、四二九、三二三円であることは被告の自認するところである。

3. 変電所移転費、機械移転費 金五五五、七二六円

みぎの事実は前示甲第七号証と原告代表者本人尋問の結果(第二回)により肯認できる。

(五)  よつて本件契約により原告の本件事業年度に生じた益金一三、八三三、一七〇円から損金四、〇八五、〇四九円を控除した金九、七四八、一二一円を原告の確定申告による所得金額三六八、七三七円に加算した金一〇、一一六、八五八円が、原告の本件事業年度の所得金額ということになる。そうであるとすれば、本件更正処分のうち、関東信越国税局長の行なつた裁決により維持された部分のうち所得金額を金一〇、〇三〇、七八二円と認定した点に取消原因となる違法は認められないし、またその余の点についても取消原因は認められない。

三、以上要するに、原告の本訴請求は理由がないから棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石崎政男 裁判官 佐野精孝 裁判官 水口雅資)

第一目録

1. 茨城県日立市助川町字白山二五四四番三

一、宅地 一三八・〇〇坪

2. 同県同市同町同字二五四四番四

一、宅地 一四一・〇〇坪

第二目録

1. 茨城県日立市助川町字白山二五四五番三

一、宅地 九〇・四五坪

2. 同県同市平和町二丁目二五四五番四

一、宅地 九九・四〇坪

第三目録

1. 茨城県日立市滑川町字南ヲボ内八四番一

一、宅地 一五二・〇〇坪

2. 茨城県日立市滑川町字南ヲボ内八九番一

一、宅地 四八・九九坪

3. 同県同市同町同字八九番二

一、宅地 五〇・〇〇坪

4. 同県同市同町同字九〇番三

一、宅地 二・〇〇坪

5. 同県同市同町同字九一番三

一、宅地 二三・〇〇坪

6. 同県同市同町同字九二番九三番合併一

一、宅地 二五三・〇〇坪

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